遠い昔のその昔、友人から聞かれた。量子力学では、壁をボールがすり抜けることもあるらしいが、本当か? 今は、もう、その友達は遠い世界へ行ってしまって、思い出しても懐かしい。当時は、トンネル効果という現象を知っているだけだった。すごい低い確率だけどすり抜けることもある、とお茶を濁しました、すいません。その友達は、時差8時間ほどの場所で元気にやっているそうである。
量子力学、とか聞くと、未来、科学、アインシュタイン(くらいしか物理学者を知らない)、はたまたE=MC^2(E=hvが正解)とか、謎の文字が頭をよぎってびっくりしたものだけど、最近はかなり身近になってきた。フラッシュメモリは、まさにボールが壁をすり抜ける現象を使っている。開け閉めできるドアのない部屋を作る。とても小さいミクロの部屋だ。壁の一部を少しだけ薄く作っておく。その薄いところから、エイヤと電子を押し込む。不思議なことに、運良く壁をすり抜ける輩(やから)が現れる。電子が詰め込まれた状態を1、入っていない状態を0とすれば、メモリにできるというわけだ。部屋に入った電子は、簡単には壁をすり抜けて出てこないので、電気を消しても、情報がなかなか消えない。しかし、消す方法がまったくないと、それはそれで困る。電気の力で壁を通して電子を引っ張ると、コロンコロン(という音はしない)と電子がすり抜けて出てくる。こうして、オンオフできる。